人間失格

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准汰が太宰を知ったのは三十歳になる手前だった。 准汰は二十代半ばまで、文学のぶの字も知らない生活をしていたので、とにかく新鮮で、刺激的だと思った。 初めて太宰の人間失格を読んだ時それが恥ずかしいことなのかどうなのかは分からなかったが、准汰にはとても他人事とは思えなかった。 そして何より、太宰が愛しいとさえ思えた。 何故こんなにも繊細で、美しく、儚いのか。 准汰が三十一歳の時、再び人間失格を手にしていた。 今の自分に太宰が何を語りかけてくれるのか。 ――恥の多い生涯を送って来ました。自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。 ――いまは自分には、幸福も不幸もありません。ただ、一さいは過ぎて行きます。 ――自分はことし、二十七になります。白髪がめっきりふえたので、たいていの人から、四十以上に見られます。 【※太宰治の人間失格より本文の一部を引用しています】
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