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後ろから声をかけられた。
長身の影がシオに近付く。月明かりに照らされたその影はなんとも奇妙だった。
シオと同じフード付きのコートをきっちり纏っている。
体つきからして男だが、深々とフードを被り顔にあたる所が真っ黒な虚になっており、表情が見えない。
男はシオの隣に立った。
「別に…ただ明けるのを待っているだけだよ、理事長。」
シオは体勢を変えずに淡々と答えた。
理事長と呼ばれた男はシオと同じように空を見上げた。
理事長がくる前より僅かに青みが差してるが、それでも空は暗かった。
「緊張で眠れないのか?」
理事長の問いにシオは俯いた。
「うん。」
「意外と可愛い所があるねぇ、うん、少年らしくていいよ。」
そう云いながら理事長は小さく笑った。
からかわれたと感じたシオはジロリと理事長の影になっている顔を見上げる。
そんな視線に気付いた理事長は笑いながらシオの頭を撫でた。
「あぁ、すまない、すまない。悪く思わないでくれ。」
笑い声は収まっていたが声は楽しげだ。
理事長はシオから手を離して空を見上げた。
「人はね、何かに対して急いだり、焦ったり、強張ったりすると大切な事を忘れるのさ。『全てはなるようになる』。この夜空が何もしなくても青空になるみたいにね。」
シオは首を傾げた。
言葉の真意をはかりかねたらしい。
「何が云いたいんです?」
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