22.それでも、僕は

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「…ふぅ!」 オーバーに深呼吸をして、ラウルは振り向いた。 随分と大胆不敵だと自覚する。 ブリジットは泣き腫らした両目で睨む。 怒気の域を越えた敵意。 ラウルはそれを全身で受ける事を恐れながらも、しっかりと浴びた。 「ラウ…ル…来る…な…。」 シオはブリジットを見たままラウルに釘を刺す。 満身創痍でも鬼気迫る緊張感を保っているシオに、ラウルは息を呑んだ。 だが、すぐに淀みない言葉を紡ぐ。 「どうしてさ?」 「……それは…」 「此処にいちゃいけない人なんていないよ。」 「行き場の…無いっ、苦しみ…受け取る事は…」 「…うん、辛い事だ…。多分今僕が考えているより…ずっとずっと。」 ラウルはプレートを回収し、整列させる。 「でもね…それを君に…シオ独りに全部移しても何も変わらない、変わらないんだ。君の中で、それは行き場を無くすだけ。」 プレートはレキシコンの形状を取り、輝きを増す。 「次は…僕の番だ。」 ラウルはシオの傍らに立った。 絶え間ない充足感が満ちている。 自信が激しくせめぎ合う。 名前の冠など、その渦の中ではただ流されているばかりの漂流物だ。 今やれる事をやる一歩を、ラウルは確かに刻もうとしている。
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