22.それでも、僕は

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エドガー・B・ボルテール。 その名前には聞き覚えがあった。 一年前はまだシオは一般教養を学びながらティーチャーズの任務に勤しんでいた時期だ。サンドハーストの生徒との接触は皆無だったが、確かその時期は何かしらの妨害工作をやらされていた気がする。 シオの心で妙な引っ掛かりになる疑問を、シオはさっさと取り払いたかったが、リントに指摘されて矛を収める。 何故か躍起になりかけていた。 「まぁ無駄な老婆心を出すとしたら…本当に無駄だからな、俺には出す理由も価値も無い。」 前置きを付け足してリントは続ける。 何か照れているようだ。 でもそれを指摘したらもう話さなくなるだろう。 「いいか、相手はすっかり煮詰まってしまっている。どうしようもないくらいな。放っときゃ焦げちまうくらい。そんな奴らはな、例え敵意を持ってても敵じゃないんだ。だってもうボロボロだし、何よりあいつらは誤っていても間違っちゃいない。わかってるな?」 「…はい。」 「お前は向こうが何をしようが頭に血を昇らせてやり合っちゃいけない。お前がやるべき事は倒す事じゃない、黙らせる事じゃない。振り払われようが噛まれようが、ふん捕まえて落ち着かせる事だ。」 「…はい。」 「絶対に、これ以上、…誰も傷つけるな。」 飄々とした口振りのリントだと思っていたが、最後の言葉は、強く突き立った。
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