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「あんな調子だったシェリルが…此処まで来たんだもん。シェリルの心はもう決まっている筈。何をするのか、どうするべきか…。」
エリスが言葉をゆっくり重ねる。
シェリルは何も返さない。エリスの云う事は真意を突いてくる。
「シェリル、もうあなたは迷う事なんてないし、できない。もう大切な人が、賭けられてしまったから。何かを考える余裕なんて本当は無いでしょう?」
シェリルは静かに顔を上げた。シェリルの瞳も澄んでいる。
「ここで立ち止まったら、あなたは本当に大切なモノを失う。」
デイジーは、今のエリスの面立ちに見覚えがあった。
あの雨の日、泥にまみれた顔で見上げたエリス。いつもの小さな品のいい顔、柔らかな形良い唇、すっとした鼻、くるくると輝く瞳。それらが一様に歪んでいた。
あれはエリスだった。雨粒に濡れた自分の瞳のせいじゃない。
「私っ……!」
シェリルが初めて言葉を返した時、彼女は走り出した。
澄んだ瞳に映る景色を貫くように、真っ直ぐ真っ直ぐ…走り抜いていった。
「お、おいおい!」
ついアレンは黙って見送っていた。それに今更気付いて狼狽える。
「シェリルが行っちゃったら俺が来た意味無くなっちゃうんだよね…。」
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