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柄杓に掛かっていた力が抜けていくのをシェリルは感じた。ブリジットから戦意が抜け始めている。今や彼女は激昂する闘志を抱えた獣では無く、壮絶で繊細な悲痛を孕んだ少女だった。
ベルベットは沈黙している。頭をもたげ、悲しみに暮れ喪に服す参列者のような姿で立ち尽くしている。
シェリルの指令は行っていない。
ベルベットはただ在るだけだった。
「人の本当の死は…ただ命を失う事だけじゃなくて誰かの記憶から、心からも消えてなくなる事なら…私が覚えていなくちゃならない。私だけでも、覚えていなくちゃ、お姉ちゃんは本当に死んでしまう。」
ブリジットの唇が震える。
「この世界は広すぎるし、人は多すぎる。人が少し消えたくらいの事なんて誰にも気付かれない小さな事なの。だから私達は失った大切な人を忘れないように、懸命に想い続けなきゃいけないのに…!」
その震えは怒りの様相を帯びる。
「酷すぎるじゃない!お姉ちゃんの死は独り善がりじゃない!誰かの為に戦って、その目的の為に死んだ!なのに見向きもしないで、覚えもしないで…!」
ブリジットの両目に再び戦意が灯り始める。
柄杓の柄に力が込められた。掴むシェリルの右手を震わす。
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