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「ねぇ、ブリジット…。ゴメン、私はまだ迷っている。まだ自分の決意に自信が無い。いつもの私なら何時までも悩んで…答えを出しもしない問いを繰り返していたと思う。でもね、今はもうそんな事出来ないの。判断がつかない私に甘えちゃいけない。エリスやデイジー、リク、アレン、ラウル…そしてシオが私の為に動いてくれて、傷付いてしまった以上…私はもう加速するしか無い。私は何よりも真っ直ぐで、澄んだ瞳を以てあなたを受け入れなくちゃならない。」
シェリルが柄杓から手を放し、
ブリジットを抱き締めた。
力強く、優しく、柔らかく。優雅に曲がった左腕を背中に回し、右腕を後頭部に置いてそっとブリジットを引き寄せた。
ラウルには華奢な体を重ねているのが、まるでブリジットが大きな翼に抱かれているように見えた。
「…っ、シェリルっ…!」
「ただ慰めや情けを売るわけじゃない。泣き伏すあなたを最後まで見届けて、晴れた後に立ち上がって明日へ向かうあなたを手を差し伸べて送り出す。」
抱き締める力が仄かに強くなる。
「あなたは、私が未来に連れて行く。」
その言葉の全てを、ブリジットが認識できたわけじゃない。
彼女は錯乱していて上手く思考が回っていなかった。ただ残響が脳に波紋を広げただけだ。
だが彼女は理解していた。言葉の切れ端の一片一片を拾い集めなくても、その響きを分析しなくても、彼女は理解できた。
声をより大きく、言葉より鮮やかに。
体に感じる両腕が全てを物語っていた。
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