863人が本棚に入れています
本棚に追加
シェリルの面持ちがいつもと違う事にリクは気付いた。
変わらぬ白い滑らかな肌に、時折憂いを灯す緑色の瞳。形良い鼻や、艶っぽい唇。全て一つ一つは変わらないが、表情の奥底に光り輝く源を感じ取れる。
確実に変わったシェリルの面持ちにリクは安堵と同時に全く異種の感慨を覚えた。その感慨は決して誉められたモノじゃない。後悔の念に近しい、背中に体の中身が引っ張られるような。
そしてそれはリクの意識の深層から、敗北感と無力感を引き寄せた。
「他の、奴から話を聞いた…。大丈夫だったか…?」
言葉を重ねる度、ほろ苦さが口に広がる。
「うん、何でもないよ…私は。でもシオ君が…私の為に…。」
「何だってシオは…。」
「逃げる私を…代わりにみんなと繋げようとした…。私が負うべき役目を代わりに背負おうとした…。」
シーツを掴むシェリルの右手に力が入った。純白の布地に皺が広がる。
「シオをこんなに傷つけてしまった私だけど…シオには感謝してるんだ。」
ぐしゃぐしゃに絡み合った毛糸が解けたように、シェリルは微笑んだ。
「シオが私に気付かせてくれた、シオが私に勇気をくれた…。シオのお陰で…いやシオだけじゃなくて、みんなのお陰で私はブリジットと向き合えた。」
みんなのお陰?
シェリルの放った飾り気無い謝辞が、残酷にリクの胸に刺さった。
最初のコメントを投稿しよう!