25.手合わせ

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その部屋は広い。 ガラス張りの壁、天井が溢れんばかりの日光を取り込み、コバルトブルーの床が清楚な輝きを見せる。まだ出来たばかりの、新鮮な煌めきと豊かな美しさに満ち満ちている部屋には巨大な円卓が横たわっていた。新築の香りが残っている部屋とは対照的にその円卓の色合いは深く、暗い。年季が入った渋みを含む黒茶色は複雑な木目を湛えている。波がせめぎ合うように、網目が、線が、絡み合い、離れ合う。決して一つの形とならず、同じ形を模する事も無く存在し合うそれらは相容れぬ姿勢を持つ孤高と交わり合う調和を持っていた。 円卓に並ぶ十と一つの席。一つの席以外は皆同じデザインで統一されている。座る人間が調整した後なのか、微妙に高さが異なっていた。 だが残り一つの席は違う。他は同じアイボリーの細長さが目立ったシンプルなデザインだが、その席は黒に近い濃い藍色で塗られ、中央に空洞が空けられている。余計な装飾は見えないが、何やら禍々しい気配を感じる椅子だ。 十の席はすでに六つ埋まっていた。 「レイルとメイデンがいないのは仕方無いとして…残り三人はどうした?」 空席を苦々しげに見やり、リカルドが尋ねた。 「一人は試験が近いと云う事で欠席、もう一人は行方不明、後の一人はいつもの癖ですわ。」
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