25.手合わせ

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「手間ならスティンガーに抑えさせればいい。」 黛の発言にメイデンは顔をしかめた。 「その為に此処の席に着いたんだろう、奴は。」 「黛…!」 メイデンが言い返そうとしたのをレイルが右手を挙げて制した。全員がレイルの方を向く。 「何はともあれ今回の事件は大した影響を及ぼさなかった。僕らは意志を揺らされる事無く、この先やっていけるわけだ。」 悠長な語り口。よく通る声調。軽薄な感触は無く、端々に威厳が入り混じる。 「いや、何があっても僕らはそうでなくちゃならない。迷いも乱れも戸惑いも。突き立てられた意志を崩すどんなモノが立ちはだかっても、僕らは…!」 レイルが右手で胸を掴んだ。ブレザーと中のシャツが歪む。握力に応じて皺が深くなる。その力は心臓を掴みだせそうな程強い。自らの内側で静かに暴れ狂う心を抑え込んでいるかのように、はたまた空虚な胸の内に嘗てあったモノを懐かしむかのように。 「この手は、伸ばされた。掴むまで引く事は無い。皆の力がそうさせるんだ。」 レイルは両手を掲げ、愛くるしそうに見つめた。 大きくも清らかな掌が二つ。 脈々の血潮が流れるその二つは生気を溢れさせながら、切なげに、指を空に踊らせた。 何も持っていない事を、確かめるかのように。
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