26.アンダードックズ・ビュー

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五月に入ると、春の陽気に新鮮さは無くなる。ねっとりとした温もりと倦怠感が風に乗って駆け回り、徐々に熱を上げる太陽が柔な日差しを降らす。四月に満ちた楽しげな混乱は萎み、慌ただしげな流れが過ぎた後に残る静けさの中で人は忘れかけていた自問を始める。 シェリルの一件は過去に昇華し、少しばかり出遅れた平穏な日常が日々を満たす。 当初避けられていたシェリルがブリジットに見せたあの態度は多くの生徒が抱いていた嫌悪を解いた。まだ冷めた距離を保ち続ける者もいたが、以前あった露骨な険悪さは大分無くなっていた。 シェリルも以前より明るく、増えた笑顔を以て振る舞うようになった。エリスやデイジーとの間にあった気まずさも解れ、怪我が完治したシオが戻ってきてからはよく皆で楽しげに屯するようになる。 罰を受けたブリジットはしばらく懲罰舎に隔離される事になったが、彼女らはブリジットの帰りを心待ちにしていた。 一方で担任のカークスはシェリルの一件に関しては二、三言及しただけでそれ以上問わなかった。淡白な対応にシェリル達は拍子抜けしたが、カークスの物憂げな瞳はシェリル達にそれ以上の対応を要求しなかった。 時期は次のフェイズに入っている。 一年生最初の定期テスト。主に実技が中心となるそれは一年生一学期の評価に大きな意味を持つ為、入学ムードから一新、一年生の中には行き詰まる緊張感が漂い始めている。
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