26.アンダードックズ・ビュー

10/25
前へ
/913ページ
次へ
一方、件の少年は。 昼休みが終わり、次の授業が始まっている頃。 リクは独り屋上で鳳嘴を振るう。 美しい波模様が施された刀身が空を斬る。濁り無い、研ぎ澄まされた一閃。大気を静かに裂く。 しかし刀身の残光は鈍い。振り下ろされた瞬間よりも僅かに速度を落とし、次の一手に切り替わっている。 そこに意図的なモノは無い。彼は特定の剣術を身に付けてはいない。彼は我流だ。剣道の基礎に喧嘩の経験を加味した彼オリジナルの戦法だ。型も太刀筋も彼のモノだ。 彼はただ単純に、一手一手を考え過ぎていた。 「フッ……!」 刀を回し、二度の逆袈裟斬り。三度突き、四度斬り返す。 速いが滑らかでは無い。 リクは骨身で感じていた。弱い。話にならない。 リクの自己への叱責は日増しに卑屈になっていくように感じられた。嫉妬やら後悔やらに勝手に枝分かれするのを抑えるだけで苦悶する。 それを少しでも和らげようと、リクはこのロードワークを始めた。 肉体を酷使し、汗粒を飛ばし、思考を緩めればいいと考えた。 「ハァッ!…ハァッ…ハァッ…!」 リクは汗を乱暴に拭って立ち尽くす。乱れは増すばかり。これ以上乱雑に振るっても悪化していく一途だ。まともに続けちゃいられない。 「くそっ、バカヤロウ…!」 悪態を己に叩き込む。 唇を噛み締め、唾を吐いた。
/913ページ

最初のコメントを投稿しよう!

863人が本棚に入れています
本棚に追加