863人が本棚に入れています
本棚に追加
「くっそぉ~…。」
リクは思いっ切り伸びをした。
「強くなりてぇ…。」
天井は、見透かせない。変わらぬ絶対的な距離を保ったまま、冷然とリクを見下ろす。
ふと、目の前にミネラルウォーターのペットボトルが差し出される。リクがその持ち主を確認する前に、ペットボトルが逆さまになった。
「うわっぷ!」
顔面に満面に水を浴びて、慌ててリクは上体を起こす。
「ペッ!…アレン…テメェ…!」
「ニハハ♪」
犯人、アレンは無邪気に舌を出す。同じように鍛錬をしていた癖に汗一つかいていない。ブレザーを脱いでシャツをはだけさせている。
「いやぁ、オーバーヒートしていたと思ってさぁ!」
「だからって…お前ぇ!」
飛びかかるリクをアレンはヒラリとかわし、サッサと逃げ出す。リクの獣めいた騒々しい足取りに対し、アレンは軽やかだ。
「コラァ!待てってぇ!」
「ケッケッケ~♪」
「あ…。」
他愛の無いやり取りを見て、ラウルはふと気付く。リクの顔から憂いが無くなっていた。曇っていた表情が、晴れ晴れと緩んでいた。
それは、いつものリクだった。
最初のコメントを投稿しよう!