27.トゥー・ビー・フリー

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夜。チュートリアルハウス中庭。 中庭と云っても実際に屋外に在るわけじゃない。運ばれた土と芝、樹木で体裁だけを整えた作り物だ。夜空に見えるのはオーロラビジョンで作られた鮮明でリアルな映像だ。温かみは無いが、艶っぽい闇と点々とした星、そして亡霊のように蒼白な月。 紛い物だが幸いにも満月だ。これだけあれば月見も出来るし、宴も出来るだろう。だが紛い物は紛い物。突き詰めればただの二次元の異物だ。 満たされる事が無い偽りに、リクは見向きもしなかった。 「灯れ…スカッシュ!」 山吹色の珠からスクァッシュが表出する。 「なんかヨーか?」 「いつもの事だよ。」 カボチャの被り物がガクリと揺れた。 「…詰まんね。」 スクァッシュが宙を舞った。リクの頭上より遥か高い位置まで上がる。 「ジャック・オー・ロケット!」 大量に出現したジャック・オー・ランタンが、オレンジ色の軌道を描いて突進する。 リクは鳳嘴を握り締め、落ち着いて間を測る。然るべき機が熟した瞬間、リクは抜き放った。 一発目を叩き落とし、流れるように鳳嘴は弧を辿る。冷静な理性が動かす刃は研ぎ澄まされた勢いに乗ったまま、全てのジャック・オー・ランタンを破壊した。 「…フゥ!」 昼間の演習の時より消耗していない。磨かれた所作と沈着とした意識は潤滑な運動を可能とする。
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