27.トゥー・ビー・フリー

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シオはリクの顔を見ず、リクの沈黙に耳を澄ます。自分でも驚く程サラリと云った。躊躇いこそ蓋をしていたが、開けてしまえば恐ろしく流動的に、円滑に、それは流れ出た。 「記憶…喪失みたいな奴か?」 慎重に言葉のプールから単語を掬い上げ、そしてそれらをリクは丹念に繋げて送り出す。視線は伏せがちだ。 まだ、シオと面向かって語り合うには早過ぎる。 「違う。元々持っていたモノを失したのなら跡がある。全く、そういうのが無いんだ。俺の人生は二年前から始まったみたいにさ。」 「今の名前とか…家族は…?」 「親代わりの人がいる。名前はその人から貰った。…今の所、俺の拠り所。」 「……。」 深い、掠れた息が漏れた。知ってしまった衝撃と後悔が交互に波打つ。 だが、後ろ向きな選択肢は無い。シオと向き合う覚悟は確実に芽生えている。 「そっか…。…ツラいか?」 「ちょっと前までは大変だった。自分が持っている感覚とか価値観とか、そういう部分を分かち合える自信が無いんだ。共有出来る経験も記憶も。知識が頭の中にあっても色を着けられるベースが無い。みんなと同じモノを持っている筈なのに実感出来ない。」 「実感出来ない?」 「どう云うのかな…、同じ人間だってわかるんだけど着ている服が違い過ぎて、その人が別人に見えてきちゃって、近付きにくくなるみたいな。」
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