5.イン・フィーリングス

14/66
前へ
/913ページ
次へ
「機嫌…損ねた?」 規則正しい歩調で進むリカルドにサリア・リンクスはためらいがちに話し掛けた。 ライトブラウンのポニーテールを揺らし、赤縁の眼鏡をかけている。 「白けただけさ。毒気を抜く奴はいくらでもいるからな、一々腹を立てているのも疲れる。」 その口調からは感情の起伏は感じられない。ただ空気の間を声が滑り込んでゆく。 「アレはアレで何するかわからないしな。明日が楽しみだ。」 わずかに語調が上がった。 「でも5 in 2 を出す必要があるの?アレに当たるとオーディションにならないわ。」 「残念ながら彼らは四人しか呼べていない。アルフレッドは聊か盛り上がりに欠ける。」 「四人でも充分だわ。」 「ダンジョンプレイは上級生を五人出すのが伝統だ。違える事はできん。」 リカルドにピシャリと云われ、サリアは不満げに黙り込む。 「模擬実技演習は見ておこう、5 in 2をぶつける相手は慎重に選ばねばな。」 「随分ハードな洗礼ね…。」 「洗礼?いやいや、これは選別さ。」 リカルドが振り返り、初めて笑みを浮かべる。 「入学生は大体二つに分けられる、『我々に従う』か『従わされるか』だ。こちらがすべき事は前者には命令を、後者には調教を与える事だ。そしてその選別を明日行う。」 「両方に属さない者はどうするの?」 「そんな者は存在しない、いや正確には明日から存在しなくなる。」 リカルドが目を細めた。 「その者は徹底的淘汰する、徹底的にだ。レイルの邪魔立てをされる前にな。」 リカルドの残酷な言葉にサリアは身震いした。リカルドは再び表情を素面に戻し、歩みを始めた。 「利有る者には富貴を、利無き者には鉄槌を。」
/913ページ

最初のコメントを投稿しよう!

863人が本棚に入れています
本棚に追加