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一歩踏み入れると、そこには奇妙な空間が広がっていた。自分の姿が写り込む程磨き上げられた大理石調の床、天井、壁が広がっているが、そこは奥行きのようなモノは全く無かった。まるで壁や天井や床が存在している宇宙に放り込まれたように、地面を踏んでいる感触が薄れてしまう。
「此処が…。」
呆気に取られた心をどうにか鎮めて、シオは辺りを見渡した。三つの壁に、入り口と同じ装飾のドアが三つ。どうやらその先があり、またその先へ進むよう促しているようだ。
シオはそれらが一様に同じ有り様である事を確認し、更にこの部屋にトラップめいたモノは存在しないと悟った。取り敢えず中央のドアを選び、その奥へ進む。
「先に云っておく、どの部屋を選んでもお前は俺に行き当たる決まりだ。」
聞き慣れた声色と聞き慣れない調子が届いた。
「…え?」
監察員のコートにバルディッシュ。半分程にすり減った煙草をくわえている男。
カークス・バレンタイン。
「カークスが…何で…?!」
「当然の反応だな。でも残念ながらこれがリアルだ。」
面白くなさそうにカークスは言葉を連ねる。クマが添えられた両目はなんとも不満そうだ。
「理事長の配慮だよ。いや茶々だな。お前にゃ普通のやり方は生温いってんでこうなった。」
「だからってカークス…。」
「お前の戦意が完全に擦り減るまでやり合えとのお達しだ。そしてお前は俺を本気で潰すつもりで来い。」
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