29.マインド・コンプレックス

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ワイルドキューブ内北ブロック。 シェリルの体から現出した翡翠色の光の珠はシェリルの頭にまで上がり、徐々に形状を変える。 珠はまずティアラになる。四つの角を持つ龍を模した、兜のように大きく、さらにヴェールが付けられている。光の粒で編んだような帷子状のヴェールは忙しく瞬いている。 中世の女王が戴冠式を迎えたように。絢爛で厳粛な覇気がシェリルから溢れ出す。シルバーワスプやコメットビットもそれを察したらしい。ただ召還体の出現に戸惑っているわけではない、別種の緊迫感が彼らを包んでいた。 「…久し振りね、エヴァ。」 ---ですな。 淡々とした語り口でエヴァが返す。エヴァは声に出して意思表示は出来ない。シェリルに直線的に思念を流し込んで対話する。 ---錆び付く前に召還頂き、光栄至極で御座りますれば…。 「気にしないで。」 シェリルは皮肉を優しく流す。エヴァにも自我は存在する。本来は武装型だが代々受け継がれ、様々な魂の断片を集め、波長に当てられている内に自我を形成したらしい。気難しい事この上ない、付き合い辛い相手であり、シェリルも幼い頃は心を通わせるのに苦労した。 ---敵は物ですか…。何とも味気無い。お一人で事足りるでしょうに。 「足りないから呼んだの。力を貸してくれる?」 ---御意に…。
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