29.マインド・コンプレックス

7/21
前へ
/913ページ
次へ
ワイルドキューブ内西ブロック。 ラウルは唇が切れている事に気付く。滲んできた血を拭って顔をしかめた。 「くっ……。」 影法師は不貞不貞しい態度で揺れている。相変わらず儚げな体躯だ。振り払えば煙のように消え失せてしまいそうな程に。 だが、ラウルはそんな影法師に触れる事すら出来ていない。距離を詰めれば例の見えない打撃が襲い掛かる。影法師が使う魔法だろうか。得体の知れなさに加えて、上手く戦えない苛立ちがラウルの中で募る。 「はっ…展開!」 一声でプレートが散らばる。瞬く間に影法師を取り囲んだ。 「ホワイトアウト!」 プレートに代わり氷が影法師を閉じ込める。ラウルはそれでも追撃を止めない。 「ヒートホー…」 術を唱える声が詰まった。ミシミシと不吉な音が腹から鳴る。拳の形状をした透明な何かが鳩尾付近に埋まっていた。押し出されるように酸っぱい吐瀉物が流れ出る。 「ン…グ…アッ…!」 ブレるピントを、どうにか凍らせた筈の影法師に向けて、ラウルは愕然とした。影法師が難無く氷からすり抜けている。特別な動作を介する事も無く、スルリと。 「そん、な…?!」 ショックとダメージが重なって、ラウルの意識を攫おうとする。ラウルは必死に意識が飛ばぬようしがみつきながら、影法師から再び距離を取った。
/913ページ

最初のコメントを投稿しよう!

863人が本棚に入れています
本棚に追加