29.マインド・コンプレックス

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「もう…ワケ…わかんない…!」 精神が忙しく波打つ。いきり立つ感情が思考を阻害する。血が混ざった吐瀉物が滴り落ちる。視界が眩く点滅する。無機質な空間の安定が、ラウルの前だけ崩れ落ちてしまったような。 痛みは鈍く胎動している。無視できる程楽ではなく、痛がれる程強い訳でも無い。半端な痛みはただただラウルを苛立たせた。 影法師は追撃を仕掛けて来ない。達観した物腰でラウルを見つめているだけだ。影故に正面を向いているか分からないが、やたら強く視線は感じる。 (じれるな…焦るな…。) 気を取り直そうと努める。頭の中でウィル・オブ・ウィルに登録されている術を片っ端から捲っていく。機械的な作業を通してこじれた糸屑のような思考を解きほぐす。 唐突に、頬に空気の動きが触れる。 「っ!」 咄嗟に上体を捻ると鼻先を空気を押し動かす物体が通り過ぎた。 「わわっ…!」 バランスを崩しながらも、プレートを背後に配置した。完全に錯乱してしまっていたが、無意識に反撃の構えを取る。 「スパークルレイ!」 眩い閃光が直進し、空間全域を照らし出す。撃ち放った直後の状況を確認しようとして、ラウルは目を見開いた。 「え…?」 影法師が消えていた。空にあの不自然な輪郭は浮かんでいない。
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