29.マインド・コンプレックス

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また床に溶け込んだのだろうか。ラウルは光が弱まるまで神経を尖らせ、注意深く辺りを観察した。シン、としている。波風立たない、静止した水面が広がる。 「消え…だっ!」 接近してきた気配を悟って身を傾けた瞬間、左肩を物体が掠める。物体が飛来した方向にはいつの間にやら影法師がいる。 「消えたんじゃない、か…。」 プレートで身を囲い、ラウルは影法師を睨み付けた。少しずつ、あの存在が理解できるようになってきた。後は迅速に、確実に首を落とす策を練り上げるだけ。 思考のパズルが軋み出す。巡り会うべきピースを探して回転する。やがて求め合うピースは定められた形に当てはまった。 「よし…!」 レキシコンの形を取って並べられたプレートが開かれる。ラウルから思考を読み取った事をアピールするように発光した。影法師は沈着とした態度でラウルを観察し続ける。 ラウルはプレートを二枚ばかり抜き取り、投げ飛ばそうとする。 途端に、影法師が揺れた。 「……っ?!」 違和感ある現象に、ラウルは不吉な予感を覚え、攻撃を押し留めた。 目の前を真っ赤な炎の波が、大気を切り開いて駆けて行く。辺りが、視界が真っ赤に染められる。赤みがかった影がラウルの背後に差す。そして薄れる影法師の延長線上のような黒い帯が床に敷かれた。 「あの炎って…確か…。」 同時に別の記憶の引き金が降りる。 大気を切り裂く炎の波、プレートを散逸させる青い波動。 「まさか…?!」 影法師の打破策以外の、別の思案がラウルに産み落とされた。
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