863人が本棚に入れています
本棚に追加
「からかうなよなぁ!」
被り物を揺らして、プリプリ怒り出すスクァッシュを、リクは被り物を優しく叩いて宥める。
「この一発は俺だけのもんじゃないんだ。今の戦いに参加している、全員の未来に響く一発だ。みんなの想いが、俺に刀を振り下ろさせた。」
リクは右手を掲げ、天を仰いだ。
「やっとわかった気がする…。俺が皆に出来る事。」
清々しい、爽やかな語り口だ。術者としてだけじゃない、自分の存在の拠り所となる魂の持ち主に、スクァッシュは敬愛と安堵を込めて見詰める。
「今更悟ったのかよ、バーカ!」
スクァッシュはいきなしリクの膝に蹴りを入れる。
「痛ってぇ!お前なぁ!」
「バカな癖にクヨクヨ考え込みやがってポンコツ!」
「悪かったなぁ!」
踝目掛けて踏みつけ始めたスクァッシュを羽交い締めにするリク。活発な子供と変わらないじゃれ合いが始まる。
「お前の考えている事なんてマボロシなんだよ!さっさと忘れちまえ!」
「あぁ…だな!」
「うがっ!ギブギブギブ!」
首周りで固めた両腕を放すと、ストンとスクァッシュは落ちた。その弾みでリクも尻餅をつく。
「ゲェ…大人気ねぇ。」
「うっせぇ。」
聊か疲れたリクの様子が面白くて、スクァッシュは肩を小刻みに震わせた。
「目に見える壁が皆本物だって限んねーからさ。リク。」
「…あんがと。」
スクァッシュの被り物をポンポンと叩きながら、リクは天を仰いだ。
目に見える壁が皆本物とは限らない…。
その言葉を再び、リクは胸の内で唱えた。
閃く感触を確かに身に染み込ませながら。
最初のコメントを投稿しよう!