29.マインド・コンプレックス

16/21
前へ
/913ページ
次へ
「からかうなよなぁ!」 被り物を揺らして、プリプリ怒り出すスクァッシュを、リクは被り物を優しく叩いて宥める。 「この一発は俺だけのもんじゃないんだ。今の戦いに参加している、全員の未来に響く一発だ。みんなの想いが、俺に刀を振り下ろさせた。」 リクは右手を掲げ、天を仰いだ。 「やっとわかった気がする…。俺が皆に出来る事。」 清々しい、爽やかな語り口だ。術者としてだけじゃない、自分の存在の拠り所となる魂の持ち主に、スクァッシュは敬愛と安堵を込めて見詰める。 「今更悟ったのかよ、バーカ!」 スクァッシュはいきなしリクの膝に蹴りを入れる。 「痛ってぇ!お前なぁ!」 「バカな癖にクヨクヨ考え込みやがってポンコツ!」 「悪かったなぁ!」 踝目掛けて踏みつけ始めたスクァッシュを羽交い締めにするリク。活発な子供と変わらないじゃれ合いが始まる。 「お前の考えている事なんてマボロシなんだよ!さっさと忘れちまえ!」 「あぁ…だな!」 「うがっ!ギブギブギブ!」 首周りで固めた両腕を放すと、ストンとスクァッシュは落ちた。その弾みでリクも尻餅をつく。 「ゲェ…大人気ねぇ。」 「うっせぇ。」 聊か疲れたリクの様子が面白くて、スクァッシュは肩を小刻みに震わせた。 「目に見える壁が皆本物だって限んねーからさ。リク。」 「…あんがと。」 スクァッシュの被り物をポンポンと叩きながら、リクは天を仰いだ。 目に見える壁が皆本物とは限らない…。 その言葉を再び、リクは胸の内で唱えた。 閃く感触を確かに身に染み込ませながら。
/913ページ

最初のコメントを投稿しよう!

863人が本棚に入れています
本棚に追加