29.マインド・コンプレックス

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「教師だからなぁ、俺は。」 「何、それ…?」 「言葉の通りだよ。俺はお前らと決定的に違う。大人で、社会人で、教師。言葉じゃ短いがその意味合いは決定的に違う。俺はただそれを自分に忠実な形で課しているだけだ。」 「どうして、そんな…。」 「ジョゼフさん程厳格じゃない、フレンシェル程お人好しじゃない、ヴェスティールさん程達観していない、ベルさん程器用じゃない。そんな俺が唯一取れる手段だからさ。」 カークスはようやっと煙草に火を点けた。煙を吐くと、シオとの間が白く霞む。 「俺なりの矜持、俺なりの立ち回りさ。理事長の期待に応えられている自信は無いけどよ。」 「なんか、後ろ向き…。」 「ネガってるよなぁ、つくづく自覚するわ。」 「もっと…前に行けばいいのに、さ…!」 シオが石突きを掴み、押し返し始める。小柄な体躯と裏腹な、頑強な力が下から持ち上がる。 「…お前は、変わったな。ガキ臭くなった…いい意味でも悪い意味でも。」 拮抗するよう、力を調整しながらカークスは語り掛ける。 「ただ楽しいだけだよ、皆といる事が…!」 「いいねぇ、青春。」 はやし立てると、いきなしシオが力を押し込んだ。煙の幕を突き破って、シオが間近に迫る。一気に顔を近付かれたカークスは拒むように、思わずシオを蹴り飛ばした。
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