29.マインド・コンプレックス

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蹴飛ばされた体をシオは宙で立て直し、フワリと着地した。 「本気出すよ、俺。」 一文字一文字に、万遍なく凄みを込めた台詞。 何時になく、シオは殺気立っていた。 「だから、アンタも本気を出せ。アンタはそうしなくちゃいけない。そうだろ、先生?」 ただ気を乱すだけの安い挑発じゃない。正々堂々と掲げた、挑戦だ。強く床を踏みしめる両脚、杖を握り締める両腕、適度に強張った両肩、キュッと引き結ばれた唇、空間に穴を開けんばかりの眼光。 、、、、、、、、 シオは、本気だ。 「…コイツは…。」 この一か月でシオは一体何を学んできたのだろうか。並大抵の一か月で無い事は承知している。ダンジョンプレイ、シェリルの一件、ブリジットの一件。正面から向き合う事も憚れ、移入する感情の匙加減も難しい物事に直面した。誰もが納得する答えすら導き出すのは難しいのに、シオは関わった。 シオにとってサンドハーストは未知なる世界だ。知れば知る程新しい発見があり、心時めかせる出会いがあり、無尽蔵の好奇心が刺激される。そこから得たモノはシオを、シオの世界を一層大きくした。 だが感動と引き換えに負うモノも確かにある。秘密、過去、本性、葛藤…。時に激しい痛みをもたらすそれらを相手にしなければならない。世界を知り、人と出会う喜びに鬱々とした陰を落とすそれらを。
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