29.マインド・コンプレックス

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だが例え痛みを齎すそれらが積み重なろうとも、シオは一歩も退けなかった。退くわけにはいかなかった。生きる事は世界を構成する要素一つ一つと出逢う事だ。差す陰くらいで投げ出してはならないし、投げ出す事も出来ない。 世界を知り、人と出逢う喜びは代え難いモノだ。痛みを越える気概がある以上、シオは諦められる筈が無い。 カークスは、観念した。 「…フゥ。まぁ、お前のやる気をカラッケツにすんのが俺の役目だし、お前の本気を査定すんのがテストだかんな。」 「御託は終わり!」 シオにピシャリと云われて、カークスは滅入った顔をする。 「後悔すんなよなぁ~。」 バルディッシュの切っ先を床の上で走らせた。 「デザートダウン。」 不協和音をけたたましく唸らせ、砂塵がうねる。歯車の形状を取り、より激しく加速し、回転する。 やがて人の背丈を遥かに越える大きさになると、勢い良く撃ち放たれた。 渦巻く砂塵を前に、シオは冷静に杖を向けた。 「テンペストゾーン!」 吹き荒ぶ風がシオの体を包み、踏み込みと同時に轟く。 デザートダウンとの衝突した瞬間、摩擦で砂が青白く輝いた。凄まじい迫力で風と砂がぶつかり合う。 「デザートダウン…ハンパねぇ速度で回る砂塵で相手を削り殺す。そん時飛び散った血が混ざって真っ赤に染まる、故に砂漠の夜明け…。」 淡々と、術の解説をカークスは終えた。
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