29.メイク・ミー・ハイ!

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ワイルドキューブ内、北ブロック。 (軽やかにっ……!) 肢体が、疾る。 (影も残さないように、音も残さないようにっ…!) その跳躍に力みは感じられない。光を纏い、空間を突き抜ける。 シェリルは自由に抱かれていた。 シルバーワスプ、コメットビットは休む間も無く反撃を繰り返す。だが虚しいばかりの抗い。寧ろ、錯乱するガゼルの群のようだった。 「エイプリルブリーズ。」 自身の重心を巧みに操作した動作で、宙を春風のように輪舞しながら、擦れ違う敵を流し斬る。 数度の爆発を背後に、シェリルは吸い込まれるように着地した。 その瞬間を、コメットビットが狙い撃とうと息巻く。 「エヴァ。」 ---御意に。 翻ったヴェールが光の散弾を放ち、コメットビットを爆破させた。 あくまで沈黙のシルバーワスプ達は無言で戦慄しているように見えた。気付けばシルバーワスプは二体、コメットビットは六体。大分数を減らしていた。 「…急がなきゃ。」 相手を凌駕しているとはいえ、エヴァ=グリーン召還までに時間を掛け過ぎた。相手はこちらがタネを見破っている事に気付いているのだろう。その立ち回りはシェリルの動きを制しようとする狙いが感じられた。 「策を……」 シェリルが思案しようとした矢先に、コメットビットが取り囲んだ。シェリルが飛ぼうとすると、コメットビットは光の網で捕らえに掛かった。 「っ!!」 コメットビットの反応より速く跳躍したせいで、シェリルは自ら網に突っ込んでしまう。
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