29.メイク・ミー・ハイ!

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プレートから黒灰色の灰燼が降り注ぐ。灰燼は瞬く間に炙り出された輪郭を包み、その正体を肉付けした。 170cm程の身長に満遍なく灰燼を浴びたシルエット。 それは自分を取り巻く状況の変化に戸惑っていたようだが、受け入れたかのように、全身の灰燼を払ってタネを明かした。 人型の灰の固まりが崩れた時、露わになったの無だった。だが、火花が散るような音が鳴り、青白い火花が空中を走り始めた。火花は人の輪郭を描くように駆け巡り、やがて輪郭の内に色付かれた物体が浮かび上がった。 赤銅色の鎧を全身に纏った人物。煌びやかな装飾とは無縁な、滑らかなフォルムと機能性を重視した洗練されたデザインが光る。頭部にはフルフェイスのような兜。マスクの部分を囲むように三本のオブジェめいた突起が付けられている。 細身の体躯と凛とした佇まいからラウルは同年代の印象を受けた。体つきから恐らく男だろう。 男の足元から伸びている影は背後で立体化して立っている。 (ブラックフォロアー…?) 影を立体化させて相手に標的だと誤認させる幻覚系魔法。今まで振り回されて来たのは意志無き影だったのだ。 男が影法師を消しているのを見届けながら、ラウルは脱力した。途端に湧き上がる自分の不甲斐なさに赤面するが、ラウルは気を取り直し、正体を明かした男に尋ねる。 「人…です、か…?」 『血は通っている。』 スピーカーを通しているのだろう、少し遠い響きの声を発しながら、男は語った。 「君は誰…?」 『お前は知らない。だがいずれ巡り会う。』 「僕を知っている?」 『知っている。…いや、似ている、が近いか。』
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