29.メイク・ミー・ハイ!

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「似ている…?!」 抽象的な言い回しと意味深な台詞にラウルは当惑する。この男は得体の知れない物事を多く知っている気がしてきた。 だが兜越しからわかる素振りで、男は詮索を留めた。周囲を見渡し、何かを確かめようとしている。 「…君を倒したら、終わりなのか?」 男はゆっくりラウルの方を向いた。影法師より無表情な暗がりがマスクに横たわっている。 『正体を暴かれたら幕引きとなっている。コングラッチレーション。』 起伏の無い口調で祝いをされてもラウルには味気ない気分しか齎さない。 「君は何者なんだ…?」 『今は審判員。二つの事柄を確かめに来た。』 「二つの、事柄?」 『一つはお前の実力と成長。試験の域だ。』 「それは、どうだったのかな…?」 『申し分無し。平均を越えている。流石だ。』 手放して誉めてくれても心は開きにくい。 『ウィル・オブ・ウィルを躊躇わず使えるようになるとはな。』 皮肉めいた口振りとは裏腹に、ラウルは微笑んだ。 「これは僕の物だ。僕が使う事は自然だろ?」 『先祖と兄の手垢にまみれた遺物がか?』 「確かにウィル・オブ・ウィルは多くの人の手を経てきた物だ。でも、それは形に過ぎない。本当に重要なのはこの中身なんだ。」
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