29.メイク・ミー・ハイ!

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『それが返答でいいんだな…?』 「ああ。」 男は頭を振った後、クルリと踵を返した。 『先刻云ったが…俺とお前は似ている。』 「…うん。」 『俺も、お前も…行く道は同じだ。お前は別の道筋を見つけた気でいるがな。だがいずれ来るべき時にお前は思い知る。俺やお前を内包する存在の深遠さに。脇道を拓いた程度で抜け出せるモノでは無い事に。』 男の足元から火花が這い上がる。通った所からまた消えていった。 「っ!!」 『今はこう呼ぼう、ラウル・クラウスター。』 「待っ…」 『真の意味での解放を望むなら、お前は今此処にある全てを失う。それを望まないのなら、敢えて受け入れる事も、最良だ。』 最後までペースを乱さない、淡々とした口調で告げると、男は再び無に溶け込んだ。 「…敢えて受け入れる事。」 ラウルが渋り、拒み続けてきた選択肢。それを選べば此処にある全てを守れると男は云った。 その真意全てを解した訳じゃない。ただ、完結していた筈の決意が僅かに揺れた。あの男は自分が考えてきた事より遥か先の事を感じ、考えてきたようだ。だから、それを知らない今はどうしようも無い。 「望めば、失う…。」 やたら心に暗い陰を落とすフレーズを呟き、ラウルは壁を見やった。 その先にある全ての一部を見通しつつ、歩み出す。 その時、シグナルが響いた。
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