30.グッド・ナイト・キス

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「ヴァネッサ。」 「お夜食は如何?」 ヴァネッサ・ハウルロイドの傍らにはワゴンが置かれている。ポッドとティーカップ、シュガーポッド、チェダーチーズが乗ったクラッカーがあった。 「あぁ、貰うよ。すまないね、ヴァネッサ。」 「…元気無さそうね。ガーリックトーストにすれば良かったかしら。」 鬱々としていた心境を見透かされ、レグナンは苦笑いする。 「…君には適わないな。それとも仕事に向いてないのかな。」 「あなたはそうやって疲れたようにしている事が多くなったわ。…二年前から、かしら。」 「もう引き摺っているつもりは無いよ。私が一生追い続ける咎である事には変わりないがね。」 大きく伸びをして、レグナンは続けた。 「ただ少し…疲れやすくなった。自然の理さ。だがそうも云ってられないのも判っている。前に進まざるを得ないからね。」 「…良かった。」 唐突に微笑みを浮かべたヴァネッサにレグナンは首を傾げる。 「確かにあなたは少し鬱々となっているけど…二年前みたいな自暴自棄になっている訳では無いみたい。なら安心だわ。」 「そうかい?もう衰えが浮き出でしまっているよ。シェリルに嫌われるな。」 愛娘の名を口にすると、勝手に溜め息が漏れる。
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