30.グッド・ナイト・キス

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「シェリル。あなたは元気で、何も変わりは無いのね?」 高まりを一切垣間見せ無い、淡々とした調子。すぐに強がるヴァネッサらしかった。 『はい、私は元気です。』 「なら私は安心です。」 一声留め、ヴァネッサは続けた。 「…サンドハーストは名に違わぬ立派な学校です。勉学だけじゃなく、心身を高める素養がたくさんあります。それらをしっかり学んでいきなさい。」 『はい。』 「あなたは幼いながらも立派な淑女です。規律正しく、品性ある生活を営みなさい。」 『はい。』 「…あなたを信じてくれる友人がいたら、仲間がいたら、それに背かず向き合いなさい。どんな困難に行き当たろうとも逃げず、困窮した人がいれば手を差し向けなさい。」 『はい。』 「後は、後は…」 言葉の筋道が揺らぐのを感じる。手繰る度に、心に隙間が出来る。零れ出す。 「体だけは、気を付けなさい。ご飯はちゃんと食べて…しっかり眠って。」 『…はい。』 「…夜も遅いわ。切ります。また、適当な日に連絡して。」 『…うん。』 「お休みなさい。」 『お休み…。』 通話は、線を切ったように途切れた。
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