30.グッド・ナイト・キス

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「ふぅ…。」 溜め息をついてシェリルは携帯電話を切った。じんわりと胸の内が痺れる。 それなりに勇気を以て電話した。サンドハースト入学前に大喧嘩して以来、気まずさと些細な嫌悪感が隔たっていた。シェリルに、両親に対する恨み辛みは無い訳じゃ無い。サンドハーストに入れられた時には散々恨み言を云った。 だがブリジットの一件以来、そんな気持ちは薄れてしまった。元より両親を、レグナンをどうこう云う問題じゃない、シェリルの気構えと友人の支えが重要な事柄だった。遅れながらも、シェリルはそれに気付けたのだ。 「……。」 つい気を遠くしてしまう。レグナンもヴァネッサも相変わらずだが、今まで感じた事の無いいじらしさがあった。それが両親が垣間見せる自分への愛情だと悟った時、むず痒い気恥ずかしさが体を擽った。それが思わぬ角度から心に入り込んだら涙が引き落とされそうになる。 ついついその感慨を抑えつつも、両親の事が好きなのだと、シェリルは自覚した。 「…!はい。」 部屋のドアがノックされたのを声で返す。 「シェリルー?私よ、エリス。」 「どうしたの、こんな時間に…?」 「あ、もしかしてもう寝る感じ?」 シェリルは目線を背後にずらした。時計は午後十時を指している。夜更けが近いが眠りにつく程の時間では無い。 「ううん、大丈夫。」 「じゃあちょっと付き合ってくれる?」 「何かあるの?」 「お・た・の・し・み♪」 怪訝な顔を浮かべるシェリルの背中を、エリスは押して行った。
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