31.彼らの呟き

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アルフレッドの瞳は鋭利さを鈍らせてはいない。しかし儚げな揺らめきが微かに漂う。それは幼いな心境から芽吹く不安から来ているようにも、底を這う陰惨な怒りが静かにたぎっているようにも見えた。 「怖い目をするなよ、アルフレッド。」 「いえ、私は…。」 感情が這い出たのを悟ったアルフレッドは直ぐに収める。 「君には全幅の信頼を置いている。そして君から託されている信頼も理解しているし、裏切る気は無い。でもね、俺も人間さ。心の水面はいつも満ち満ちている。」 声が感傷に霞む。 「小石が落ちれば波紋が広がる。真意を擽られたら、惑うよ、俺も。」 「彼がそれだけの存在と…?」 「シオ・クォールだけじゃない。もっと多くの刺激が惑わせてくる。そこかしこに溢れているんだ。」 楽しげなレイルの瞳が煌めく。 「だから俺は出逢いに時めき、奪われる事に憤れる。当たり前の感情の波、反応、目まぐるしく立ち替わる希望。明日、また明日…切望し、手を伸ばす。楽しく、豊かな日々。ありふれていながらも、かけがえのない…ただ一つのモノ。」 「感じてしょうがないよね、生きる楽しさ。…やっぱ病み付きになっちゃうよ。」 出来る事なら、出来る事なら…。 無言で唱えつつ、レイルは高ぶりを身に染み込ます。
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