31.彼らの呟き

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「シオはよくやっているじゃないか。」 理事長は上機嫌だ。ヴェスティールやベルクロフトは意外そうに顔の見えないフードの奥を見る。 監察員専用のブリーフィングルーム。薄暗い照明の部屋の中央に、特殊加工した電子ボードが柱のように聳え立ち、サンドハーストのありとあらゆる場所の映像、記録が映し出されていた。闇を薄く引き伸ばしたような部屋の中でそこだけが鮮明に、燦然と輝いていた。 「あんな戦い方が出来るようになるなんて、良い傾向だよ。」 「仲間の為に戦う?青春ッスねー、いやマジで。」 「独りの弱さを知る者にしか悟れない答え。…繋げる人、か。いいじゃないか。」 言葉、語調。理事長のシオへの愛着の深さが窺い知れる。ヴェスティールは半ば呆れ気味だった。 「…生徒会が何やら嗅ぎ回っているらしいですが。」 「あぁ仕事の話!野暮だねヴェスティール君!」 「勤務中ですので。」 話題の転換に不平を漏らす上司を冷静に切り捨てて、ヴェスティールは続ける。 「カークスが好ましく無いタイミングで目撃されたお陰でシオの事情が露呈しかけた。彼が我々の手の内の者だと知られなら事ですから…。」 「レイルは賢いから深入りはしないさ。監察員の内情は易々と入るべきモノでは無い事を良く知っている。」 そこまで云い終えた理事長は、何やら落胆しているようだ。 「生徒相手に諜報戦、世知辛いねぇ全く。」
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