31.彼らの呟き

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「今はそうならざるを得ない…。そんな状況です。」 「お察ししろ、ヴェスティール。シオにカークスを当てる事自体、初めから不本意だったって知っているだろう?」 ニットキャップを外し、頭を掻きながらベルクロフトは云った。ヴェスティールは無言で顔を伏せる。 「気遣いは無用さ、ベルクロフト。立場と私情を違える事はしない。シオに関しては…私は時に冷淡に接しなければならない。」 一言、一言。理事長の言葉は鈍重だ。 「シオは特別だ。その出生もさることながら、彼自身の価値観や個性も…年齢にしてはまだ未熟だ。私はユニオンの意向を無視した上で彼をサンドハーストに入学させた。彼がサンドハーストでの生活に不適合だと判断すれば、ユニオンは強制的に回収を試みるだろう。そうなった時の為に厳格に審査する必要があった。…要らぬ心配だったようだけどね。」 理事長が零す溜め息は、安堵より生じたモノだ。 「身勝手だが…私は彼に色々期待を掛けている。彼はきっと…何かを変えてくれる、大切なモノを…守ってくれると…。だが、大人の事情で子供の事情に介入するのは良くない事だ。尤もらしい理由を添付した所で、シオに対する背信だよ。嫌になるね、全く…。」 「シオは真意を知りません。秘めるのは、辛い事でしょうが…。」 「気にしなくて良い。これが初めてじゃないからね…。」 ヴェスティールに向けたおどけた仕草は、自嘲の意味合いを含んでいた。
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