31.彼らの呟き

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「吃驚だろう?あの冷め切ったシオがあんな活き活きと…。色々葛藤を抱えていた生徒達もあんな素晴らしい立ち回りを見せてくれた。担任としては喜ばしい限りだろう?」 「そりゃ、まぁ。」 「君の教師としての手腕を再評価すべきだね。」 「はあぁ……もう、何なんすか…。」 すっかり憔悴した顔を見せるカークスに理事長は肩を小刻みに上下させる。 「成長を目前にする程、心震わせる喜びは無い。芽吹いた未来が、健やかに伸びて蕾を、花を、実を…。次々と変わる様相、表情、心情…。見ているこっちが…年甲斐も無くワクワクしてくる。」 「…俺はまだ二十五ッス。ンな感覚わかりゃしません。アイツラに共感出来る程若くも無いですが。」 「またまた!人はどれだけ年を重ねても、前に進む事は止めない。感じ入れられるのなら、君の中で変わるモノがある筈さ。」 「今更…俺は……。」 声を落とすカークス。瞳の焦点は明後日の方を向いている。回想を重ねているようだ。 「まぁ、一先ず経過報告を聴こうじゃないか。その後はゆっくり夕食でも。」 「勘弁して下さいよ…。」 煙草を取り出し、一服しようとした矢先、 「っと!此処は禁煙だよ、ミスター・カークス。」 得意気な指摘。 身を削られる感覚を、カークスはげんなりとした心で覚えた。
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