32.少年少女

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「何かあるの?」 「フッフー、もう少しでわかるよ!」 すっかり舞い上がって足取りが軽いエリスに首を傾げつつ、手を引かれていくシェリル。 女子寮から外に出る。満天、という程では無いがそれなりに星が煌めいている星空が出迎えた。息を潜めているように光を萎めている星もあったが、しっかりと輝いて大地に明るみを零す星が目立つ。眠り込んだ静けさの中に、呼吸に似た脈動が低く鳴る夜だ。 女子寮から離れ、二人はグラウンドと校舎の間にある森に入った。プラントが浮遊するエリアの真下にある、鬱蒼と生い茂る木々が並ぶ道だ。シェリルは体育や実技の授業以外で此処に立ち寄った事は無い。カップルや一人になりたい生徒がいるのを時折見かける程度だ。 シルエットしか見えない森の木々が二人を密やかに取り囲み、音も無くプラントが頭上を通り過ぎる。近いようで遠い奇妙な距離感の中に、何故だか安らぎを感じる存在感があった。 エリスのリードも大きい。灯の明かりが疎らな道をスイスイ進む。段々足元の草が増えていくの感じる。ルームウェアの、グレーのスウェットのズボンに擦れてカサカサと鳴る。サンダルに夜露が落ちて、足の指が濡れた。 「ゴメンね、足元、気を付けて。」 シェリルは頷くが、困惑が募ってきた。目的地も道程も不明瞭だ。手探りでは無いようだが、行く先は皆目見当もつかない。 「もう少しだよー…あった!」 エリスの声が弾む。視線を追うと、月明かりにしては青みが強い発光が森の奥から見えてきた。森の中で密かに、蕩々と湧く泉のように。光はゆっくりと溢れ出していた。
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