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それはとある夜のことだった。
桐一葉。夏が終わり、秋へと移り変わった季節。木々を靡かせていた涼風は冷たさを増し、その風を受け煤けた葉は秋声を鳴らしている。そして空を覆うように見えた巨大な岩雲も消え、今は高くに上った雲が目立つ。
そして夜になれば、雲など見えぬ程に真っ暗な空になる。そこにあるのは、ただぼんやりと闇夜に浮かぶ光。
その光が円を描いた、そんなとある夜のことだった。
月光と外灯だけが、目の前に伸びる道を明るくしてくれている。
そこに突然、薄っすらと浮かび上がる様にして現れた。
ただ真っ白なワンピースを纏い、肩よりも下に伸びた黒髪を風に揺らす。
夏には適した短い袖の部分から延びる腕は、半袖のワンピースが長袖に見えるぐらい白な肌をしている。
足もとを見れば何も履いておらず、素足のまま僕の方へと近づいて来た。
ここが浅瀬や水際であれば、とても美しい絵になったことだろう。けれど、残念なことに今いる場所は普通の道路。裸足でいるにはいくらか……いや、かなり不自然であることは間違いない。
仮に浅瀬であったとしても、その姿を見れば誰もがおかしく思うはずだ。その清楚とも言える格好には決して似合うことのない、怪しげな仮面を着けているから。
仮面は顔全体を覆うのではなく、顔半分。口以外、顔全てを隠している
これを見てまだ清楚と言えるのであれば、それはただの変態。回れ右をしてご帰宅願いたい。
変わらぬ速さで徐々にこちらへと近づく。
突然の出来事に、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。
そして、そして。
やおら両手を広げ、僕に――。
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