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喉が渇いた僕は、コンビニに立ち寄ることにした。彼女もそれに異論はなく、寧ろ乗り気な様子だ。
彼女はまた僕の後ろに回り、後に続く形でコンビニへと入った。
僕は紅茶、彼女はコーラを選んだ。
コーラ中毒な彼女は、一日一本、150ml以上のコーラを口にする。経済的に考えればあまり喜ばしいことではないのだけれど、一時期かなりのペースで煙草を吸っていた僕と比べれば、その時程の出費ではない。
レジ前に立つと「いらっしゃいませー」、と店員。僕の背後に立つ彼女も、それを真似て『いらっしゃいませー』と言った。
何が面白かったのかは理解出来ないけれど、彼女はそれだけでとても楽しそうに声を上げて笑っている。
店員は僕からお金を受け取ると、代わりにレシートとお釣りを返す。僕はそれらを飲み物の入ったビニール袋へ落とし、手にぶら下げ店を出た。
店員の「ありがとうございましたー」という言葉に次いで、『ありがとうございましたー』と、後ろから彼女の楽しそうな声も聞こえた。
「あのねえ、ああいうのは良くないと思うよ」
店を出てから僕は、彼女に軽く注意をしてみた。もちろん、振り返らずに。
『何のことだ?』
「惚けたフリして、分かってるでしょ? コンビニでのこと」
『ああ、あれか』
恐らく彼女の口は、笑っていることだろう。小さく、けれどとても愉快そうに。目を向けずとも分かるのは、僕と彼女がそういう関係にあるから。
『良いではないか、どうせアイツに気付かれることはないんだ』
そう言うと、彼女はまた笑った。今度はきっと、少し悲しげに。
そんな反応をされては、これ以上文句の言いようがない。僕はもう何も言わず、買ったばかりの紅茶を飲んだ。
あまり冷たくなかった。
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