0人が本棚に入れています
本棚に追加
『ところでだ、いい加減私もコーラが飲みたいのだが』
そう切り出したのは、コンビニ出てから十分程経った頃だ。
言われてみれば、まだビニール袋の中には蓋すら開いていないペットボトルが一本あった。
僕は袋の中からそれを取り出し、彼女に頭側を向けて差し出す。
ペットボトルを僕が掴んだまま、彼女はキャップを捻る――と。
プシャアァァ、と炭酸が泡立ちながら彼女目掛けて飛び散っていった。大した勢いではなかったけれど、飲み口が良い具合に彼女の方を向いていたため、思い切り彼女の顔の方へと飛んだのだ。
ああ、そういえばレジに行く前に落としたっけ。それとここに来る途中、二度程電柱にぶつけたな。あとは嫌がらせで、こっそり何回か強く振ったりもした。これだけ揺れれば中が飛び出るのも当然か。
まあ、僕に掛かってないから大した問題じゃない。彼女にしてみても、コーラが自分の方へ飛び散ったぐらいでは何てことではないだろう。それよりも彼女は、
『ああっ、中身がこんなにも減ってしまった! おい、ゆうっ。もう一度コンビニに行くぞ!』
分量が少なくなったことを問題視しているからだ。
「嫌だよ、そんな面倒なこと。もう今日の分は飲んでいるんだから、それで我慢しなよ」
『そんな殺生なっ!……いや、待て。もう日付は変わっている、だからまだ今日の分は飲んでいないぞ』
また屁理屈を。
コーラは一日一本だと約束をしている。今買ったのは特別だ。
もちろん彼女だけ嗜好品を制限させるのは不公平なので、僕も煙草は三日に一本にした。今はそれほど吸わなくなったので、僕は全然困ることはない。けれど、さっき話した通り彼女はコカイン……もといコーラ中毒なので、とにかく飲まなければ気がすまないのだ。
「じゃあ今日の分はそれだね」
『なにっ、あわわわっ。やはり今のは嘘だ、嘘。これで我慢しよう……』
その表情は、さっきよりも悲しそうだ。
最初のコメントを投稿しよう!