青年とお姫様

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俺は彼女を気味悪く感じてしまった自分に吐き気さえ覚えた。 彼女の細く白い手首に出来た血の滲んだ赤い擦り傷は鎖に繋げられていた手を無理矢理に伸ばしたから出来たのだろうか。 彼女の薄汚れた白いドレスの赤黒い汚れは何度も死のうとして舌を噛みきって出来たものなのだろうか。 耳の生々しいひっかき傷は自分を救いに来ようとした騎士たちの最期の悲鳴をこれ以上聴くのが嫌で自分で毟り取ろうとしたのか。 同情や後悔の様な名前が付く感情をとうに過ぎ去り、新しい感情を生み出して俺の瞳から涙をこぼさせるには十分だった。 彼女は自分の為に泣いてくれた事が嬉しかったのだろうか、俺をそっと抱き締めた。 鼻をつく古臭さとまだ新しさを思わせる血の臭いの差に長い年月を感じ俺はまた泣いた。
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