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「さて、私はそろそろ帰ります。」
俺が泣き止んで少しすると彼女は立ち上がってテレビに向かって歩きだした。
彼女は自ら絶望の世界に帰ろうとしているのだ。
「とても楽しかったわ。ありがとう。」
微笑む彼女、その瞳に光は見えない。
何もしてない俺に彼女は礼を言ってテレビの画面に手を伸ばした。
そしてその手を俺がつかんだ。
彼女は不思議そうに俺を見上げる。
俺は自分でも訳が分からなかった。しかし口は動く。
「えーと、ですね。
朝日が射し込む明るい部屋。
夜には星や月が見える大きな窓。
扉を開けば外に出られる空間。
身体にも心にも寒さを感じさせません。
つまり…俺の部屋に住むのは不服ですかね、お姫様。」
今度は彼女が涙する番だった。
俺がこうするのはこの映画の悲しい最後を知っていたからだったのか、はたまた…
それは分からないがとりあえず俺は小さく肩を震わせて俺に抱き付いて泣く彼女を抱き締めた。
ずっと泣くのを我慢していたのか忘れていたのか、彼女は全く泣き止まない。
不意に顔を上げて濡れた瞳で彼女は笑う。
そして言った。
「私の王子様は別の世界に居たのね。なかなか助けに来てくれない筈だわ。」
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