序章,記憶の断片

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序章,記憶の断片

 運命は往々(オウオウ)にして残酷なものだ。  だからそうだとしても、倉木準(クラキ ジュン)はいつものように自分の時間を過ごすだけで、何も変わらなかった。  それもそのはず、常人なら運命なんて気にしないし、無意識のうちに運命を待ち受けているからでもある。  そうして運命を待ち受けた結果、それは幸せな結末だろうか。  では運命を切り開いた結果はどうだろう。  運命に抗い立ち向かい、未来を変えて幸せを掴むのかそれとも、素直に受け入れるのが本当の幸せな結末なのか。  そんなことは倉木には分からなかった。  だけどこれだけは言えることがある。  幸せが待っているなんてことはない。  だって幸せは、掴み取るものだから。 「おい……まさか、引ったくりか……?」  おおよそ掴み盗る物を履(ハ)き違えた、紺色(コンイロ)作業着姿の男を視界に捉(トラ)えつつ、倉木は今一度心中で嘆(ナゲ)いた。 (……嘘、だろ!?)  結局のところ、しかしやっぱり運命に抗った方が、幸せな結末を迎えることが出来るのかもしれない。
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