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結局、その日は先輩が納得いくまで記事の割り当てを設定しただけで、図書室を出ることにした。俺は、終盤はずっと手持ちぶざただった。
いつも、ことを急がないのが先輩だ。今日だってまだ時間はあるのに、
「急ぐことはないよ」
と、一言笑顔で済ませてしまうのだから。
先輩が全ての荷物をしまい終えたのを見計らい、行きましょうと声をかける。笑顔で頷いて立ち上がるのを見届けると、先に図書室の出口へと足を進めた。
人気のない廊下に、俺と先輩の渇いた足音が響いている。ふと、横に並んだ先輩が、窓の外に目を向け、小さな声で言った。
「ほら見てよレイ、まだ陽があんなに高い……」
呟きのようなその言葉に釣られて、先輩と同じように窓の外を見ると、思わず目を細めてしまうくらいに眩しい日輪が、校舎ごと俺たちを照らしていた。今まで意識はしていなかったけど、廊下にもしっかり二人分の影が長く伸びている。
さっきまでは憎い感情しか抱いていなかった日差しも、今じゃすっかり弱くなっていた。
――そうか……先輩と会わない間に、こんなにも――
いつの間にか図書室に冷房がかかっていたことや、お互いの制服が夏服に変わっているのが証明している。
季節が移ろいゆくほど、俺と先輩の空白の時間は長かったんだ。
「もう、夏っすね」
先輩は、小さく頷いた。
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