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昼休み、学食へと向かう途中、渡り廊下の下に、先輩の姿が見えた。思わず、足を止めてしまう。
恐らく下級生であろう、数人の女子に囲まれていて、その辺りだけ、周りと比べるとどこか華やかな空気を創りだしていた。
(今日もか……。つくづく先輩って、人気者だよなぁ)
文武両道、容姿端麗、明朗快活。
先輩という人物を形容するにあたって、これらの言葉全てが当てはまる。その他にも綺麗な長い黒髪や高音より少し低めの心地よい声、などなど……。
となると、例え生徒会や部活動(新聞部は例外だ)に所属していなくても、当然のように先輩は人気があった。それも驚くべきことに、男共はもとより、それ以上に下級生の女子からの支持率が圧倒的に高いのだ。
先輩とは俺が入学した当初からの知り合いなんだけど、女子に話し掛けられている現場を目撃することがよくあった。
そしてそれが愛の告白、なんてこともしばしば。
先輩自身はソッチの気はないようで、告白の度にやんわりと断っているようなのだが、女の子に言い寄られること自体はまんざらでもないらしい。たまに、今日はこんな告白をされたんだ~なんて、嬉しそうに語ることがあるから。
今も、先輩は楽しそうな表情を浮かべて会話をしていた。
……ときどき、どうしてあの人は俺なんかと一緒にいるんだろうと思ってしまうことがある。
"あるきっかけ"があったとはいえ、俺と先輩は一緒にいる機会が多い。
どうして、先輩のような人が、俺みたいな冴えないヤツなんかと一緒にいるんだろう……と。
思うだけで深く熟考はしないからなんだろう。いつも、答えなんか見つからないまますぐにそのことは忘れてしまう。
先輩と目が合う前にと、俺は顔を上げて、止めていた足を学食へと向けた。
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