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大引先輩の前では調子のいいことを言ったけど、正直三千円の出費は大きかった。
「ケーキ、持つわよ」
大引先輩が、カバンを掛けている肩とは逆の方の手を差し出してくる。
「あ、じゃあお願いします」
立体型の紙箱を渡して、自由になった手で携帯を確認する。
「もうすぐ一時ですよ」
「ホント? 早く戻りましょ。夏芽が来る前に準備を終わらせないと」
再び炎天下に戻った俺たちは、来た道を逆順して俺の家へ。
「こうしてケーキ持って並んで歩いてる男女って、周りからはカップルにしか見えないわよね」
住宅街を歩きながら、大引先輩が不意にそんなことを言った。
「周りからどう見えようと、俺には先輩しかいません。大引先輩だって、彼氏がいるじゃないっすか」
「そうね、レイには夏芽がいるもんね~」
からかい気味に呟いた後、大引先輩は真面目な口調になり、小さい声でこう続けた。
「夏芽のこと、大事にしてあげてよ」
そんなこと、言われるまでもない。先輩は、俺が必ず守る。
「一生でも、大事にしますよ」
「……生意気なこと言っちゃって。もし浮気なんてしてみなさい、夏芽のかわりにアタシが君をひっ叩くからね」
そんなこと、あるわけないじゃないか。俺たちが離れる時は、先輩が俺に愛想を尽かしてしまう時だけ。それ以外はあり得ない。
俺が先輩を嫌うなんて、今は考えられなかった。
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