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「明日、学校早めに終わるよね?」
「はい……たぶん」
明日は始業式とホームルームがあるだけで、午前中には解散になるはずだけど……。
「えっと、だったらね……」
組んだ手の人差し指をもじもじ遊ばせながら、先輩はテーブルへと視線を移して、どうにか続きを口にしようとしているようだった。
そして、すっと顔を俺の耳元に寄せた。
「放課後、デ、デートしない?」
上ずった声が耳元で聞こえた時、説明のつかない何かが全身へ電流のように駆け抜けて、甘酸っぱい余韻を身体中に残した。
部屋は全く寒くはないのに、全身の鳥肌が総立ちしているような感覚だった。
「ダメ、かな?」
顔を離した先輩が、少し困ったように笑う。
もし、姉ちゃんと大引先輩がここにいなかったら、俺は間違いなく先輩を抱きしめていただろう。
津波のように押し寄せてくる愛しさを、俺はやっとのことで我慢することができた。
「ダメなわけないです。しましょうよ。デート」
「レイ……」
力の抜けた、無防備な笑顔だった。きっと、言葉にするまでによっぽど緊張していたんだろう。
そしてそれは、やがて俺の一番大好きな、太陽のような笑顔へと変わった。
「絶対だよ? 約束だよ?」
俺は返事代わりに、優しく先輩の手を取った。
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