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女性陣三人はケーキの美味しさにキャアキャア言いながら盛り上がっていた。
俺も確かに美味しいとは思うけど(ほとんど自腹なわけだから、そう言い聞かせないとやってられない)、あまりに華やかでかしましいその輪の中には入れずにいた。
隣の先輩をこっそりと伺うと、唇の端に僅かにチョコクリームを付けていて、そのあどけない横顔に俺はフッと笑いを漏らしてしまう。
そして、先輩はあまりに、思わず姉ちゃんと大引先輩に嫉妬を覚えてしまいそうなくらいに楽しそうに笑っていた。
そういえば、最近になるまで、俺は密かに懸念していたことがあった。
今思えば、馬鹿馬鹿しくてくだらない取り越し苦労だ。
でも当時は、ほとんど心に表面化することはなかったけど、心の隅には小さくこびりついていた気がする。
それは、先輩が俺と一緒にいてくれるのは、俺が"綾さんの弟"だからなんじゃないか……という懸念。
――つまり――先輩が慕っている姉ちゃん。俺がその弟という立場だから、先輩は俺と親しくしてくれていた、と、いうことだ。
あまり意識なんてしていなかったけど、俺と先輩の関係は、そんなあやふやで……脆い、首の皮一枚でやっと繋がっているようなものなんじゃないかと、小さくだけど何度も思ってしまった。
それでも、今になってはそんなことじゃないって、思うことができる。
そりゃあ、きっかけは俺が姉ちゃんの弟だからだ。
入学式の時に姉ちゃんがけしかけなければ、俺は先輩と関わりを持ってなかっただろうから。
だけど、大引先輩も言っていた。
先輩は、純粋な気持ちで俺と一緒にいてくれたんだ。
そして今は、恋人として傍にいてくれる。
今はその事実が、何より大きく俺の中に居座っているのだ。
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