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ケーキを食べ終わる頃には、三人はすっかりご機嫌だった。
話す話題はどれも外れなしの大盛り上がりで、今日一日で先輩は受験のストレスなんて跡形もなく消し飛んでしまったんじゃないかって思うくらいに笑っていた。
いつまでも、この明るい空気に浸っていたい。心の底からそう思う。
あまりに気が楽で、あまりに理想的で、あまりに幸せすぎて、怖いくらいだった。
だから俺は、先輩がそろそろ帰らなくちゃいけないと言ったとき、残念に思う気持ちの中に、どこか安堵を感じていた。
「レイ、夏芽を送ってあげなさいよ」
そう言う姉ちゃんの顔には、どこか含み笑いのようなものが見え隠れしていた。
もちろんそんなこと言われるまでもなく実行するつもりで、俺は立ち上がろうとする先輩の手を取り、優しく引き上げた。
「綾さん、お料理とても美味しかったです。麻奈美も、今日はホントにありがとう」
玄関で靴を履き終えた先輩は、丁寧にお礼を述べて、深く頭を下げる。
「またいつでも来てね」
「受験終わったからって、あんまり浮かれるなよ」
姉ちゃんと、まだ家に残るらしい大引先輩は、笑顔で送り出してくれた。
「それじゃあ、お邪魔しました。レイ、行こう?」
「はい」
俺たちは、どちらともなく自然に手をつないだ。
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