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先輩と手をつないで歩くのも、もう何度も経験してきたことなのに、今も俺の心臓は跳ねて、その緊張を悟られまいと表情が固くなってしまっているのが、自分でもわかる。
「レイ、遅れたけど……」
「何です?」
俺の左手を持つ先輩に、小さく視線をやる。
「今日、ありがとうね。とっても、とぉっても嬉しかったよ」
子供のような、純粋無垢な笑顔が俺に向けられていた。
降り注いでいる日差しが、余計にその純白を強調させる。
高鳴る鼓動はそのままに、固い表情は自然とほぐれていく。
眩しいくらいにピュアな笑顔。歩きながら、俺は先輩をむちゃくちゃに抱き締めたいと思った。
愛しさが俺を占拠すれば、自然と握る手を強くしてしまう。唯一のつながりに、俺はありったけの"好き"という想いを詰め込んだ。
「先輩」
「ん、なぁに?」
はにかみながら、先輩が控えめに訊き返す。
「――ひまわりの花言葉」
「え……」
ぱあっと、僅かに先輩の表情に花が咲く。
「私の目は貴方だけを見つめている」
昨日、家に置いてあった花図鑑で密かに調べておいたその言葉を、俺はそのまま先輩に告げる。
それはちょっとした愛の告白のようで、俺は意識せず赤面してしまう。先輩の方も、同じらしい。
昨日の先輩の視線の意味を、俺はようやく理解できた。
先輩の手を握ったまま、立ち止まる。
誰もいない住宅街。車も通らず、陽炎だけが音もなく揺れている。
「先輩……先輩は、俺だけを見ていてくれますか?」
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